『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』読んだ
キャラクター論やテクノロジー論として、またヲタク文化やネット文化になぞらえて説明されることの多い初音ミクだが、本書は、過去数十年の音楽史において大きな影響を与えたムーヴメントや、その背景にあったカウンターカルチャー、また近代の音楽環境における技術的な変遷を踏まえながら、『初音ミク』の登場がその結実であったこと、ある意味でその起こりが奇跡的なタイミングであったことなどを描いている。
かたい論考とかではなく、クリプトンの伊藤社長や著名なプロデューサーなどへのインタビューを繋ぎながら、過去に遡ったときに何を起点にして初音ミクが始まったと考えられるのか、現在に至るまでにいかに初音ミクという文化が形成されていったか、そして未来においてどのような在り方が望まれているかを追いかけたドキュメント。
本文中で何度も繰り返されているのが、ある日突然「電子の歌姫」が誕生して、未曾有の現象を巻き起こしたわけではないということ。ベトナム戦争への反対運動を発端としたヒッピー文化の生まれから、宅録文化やデジタルシンセサイザーの登場、同人音楽の文化など、技術と文化の両面で近年の音楽史を追ったものとなっている。音楽史的な参照点を踏まえてVOCALOIDを語ったものはこれまで少なく、それだけでも大いに価値が高い。
音楽とインターネットとの関わりと言うと一部ではネガティブな見方が多いが、本書はその反証となっているところも大きい。民衆にも手の届くものとして降りてくる新規技術、オープンソース的な音楽文化の在り方、自己実現としての楽曲制作など、これまでの音楽史で繰り返されてきた現象を踏まえながら、初音ミクという現象も一過性のブームではなく一つの文化であり、我々はいま起きつつある情報革命のまだほんの始まりの部分にしか立っていないとしている。VOCALOIDの文化形成について書いた本ではあるけれど、インターネットやテクノロジーに希望を抱く人、クリエイターとして何か面白いことをやっていきたいという人にこそ読んでほしい。
初音ミクを音楽の歴史に位置づける『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』著者 柴 那典インタビュー | Musicman-NETという著者のインタビュー記事があるので、これを読んでみてもし興味が湧いたら本を読むというのがおすすめです。